人類の営みのうちで、地球温暖化によって、直接大きな影響をうけるのは農業と漁業といってもよいと思います。
農業のなかには林業もふくめて考えていますが、農業と漁業とはどちらも、自然環境と気候条件のわずかな変化によって大きく左右されるからです。
しかし、農業も漁業もどちらかというと、発展途上諸国にとって重要な産業です。
これに反して、地球温暖化の原因となっているのは主に、先進工業諸国での工業活動です。
このような点からも、地球温暖化は、先進工業諸国と発展途上諸国との間の関係をいっそう不公正、不平等なものとする役割をはたすことになります。
世界全体で、一億三四〇〇万平方キロメートルの土地があります。
そのうち、耕地として利用されているのは一五〇〇万平方キロメートル、約一一%です。
その他に、牧草地が三二〇〇万平方キロメートル、森林(ひろい意味で)が四一〇〇万平方キロメートルですから、合計して八八〇〇万平方キロメートル、約六五%の土地が農業となんらかのかかわりをもっていることになります。
農業に従事している人々は、約一一億人です。
経済的に活動している人口の半分が農業に従事しているわけです。
日本の場合ですと、三八万平方キロメートルの土地のうち、耕地が四万七〇〇〇平方キロメートル(二一・五%)、牧草地が六〇〇〇平方キロメートルニ・五%)、森林が二五万平方キロメ一トル(六六・〇%)です。
世界の森林は四一〇〇万平方キロメートルですが、乾燥地はもっと広く、六〇〇〇万平方キロメートルの面積を占めています。
そのうち、耕作可能な土地の約七〇%で、砂漠化か進行中で、世界の人口の六分の一に当たる約九億人がその被害をうけています。
とくに深刻なのはアフリカ大陸で、乾燥地の八〇%で砂漠化か進行しています。
農業は、植物を農作物として栽培したり、動物を家畜として育成して、食糧の生産をおこなう作業が中心です。
したがって、工業と違って、自然のリズムにしたがって生産活動をおこなうもので、自然と共生することによってもっとも効率的な結果が得られるといってもよいと思います。
しかし、農家が経営的に自立できるためにはどうしても、自然のリズムに逆らって、化学肥料、農薬などを大量に使用せざるをえないのが現状です。
そのために、農業活動にともなって発生する二酸化炭素の量も無視できない状況です。
しかし、工業部門に比べると、農業部門からの二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出はずっと少なくなっていることも事実です。
とくに、日本の場合、水田耕作が中心ですので、地球温暖化への影響はきわめて小さいものとなっています。
水田耕作は、環境問題の観点からみると、大変すぐれた特徴をもっています。
水田は、春から夏にかけて水を貯えています。
水田の水は大部分、雨水が森林のなかで涵養されて、きれいな水となって、河川を流れてきたものです。
水田はこのきれいな水の貯水池としての役割をはたしています。
水田という貯水池に貯えられている水の量は八一億トンに上ると推計されています。
洪水調整用のダムの水量は、日本全体で、二四億トンといわれていますから、水田に貯えられている水量はその三・四倍にもなるわけです。
洪水調整用のダムは、美しい山河を破壊して、ゆたかな山村の生活を犠牲としてつくられたものが大部分です。
それに比べると、水田は、農村の中心として、美しい、さわやかな自然をつくりだしています。
水田はまた、夏の暑い季節には、気温を下げ、涼しい風をよびおこす役割もはたしているのです。
水を張った水田の土は、窒素肥料に含まれているアンモニアを分解して、窒素ガスとして大気中に放出してしまいます。
アメリカやヨーロッパの国々では、窒素肥料によって地下水が汚染されて、深刻な問題をおこしていますが、日本では、水田耕作が中心ですので、このような心配は要りません。
水田耕作はまた、連作を可能にします。
普通の畑作ですと、同じ種類の農作物を二年あるいはつづけて栽培すると、病虫害などが発生してつくれなくなってしまいますが、水田はこのような心配も要らないわけです。
IPCCの報告では、水田からメタンが大量に発生する点が指摘されています。
しかし、日本の水田耕作では、田植え、草取りなどによって、水田に張られた水をしょっちゅう攬件していますので、メタンの発生はごくわずかしかないことがわかっています。
このように、水田耕作を中心とした日本の農業は、地球温暖化にかぎらず、自然環境の保全という点から望ましい性質をもっています。
しかも、農村がゆたかで国民に充分な食糧を供給することができるのは、社会的安定性という観点からも望ましいということができます。
世界の漁業資源は、この三〇年間に大幅に減少しつつあります。
とくに、二〇〇海里の海域を領海とする取り決めが実行に移されてから、魚介類の乱獲がはげしくなり、漁業資源が大きく減少してきました。
世界には、主な漁場が一七ヶ所ありますが、そのうち一三ヶ所について、漁業資源の減少がとくに目立っています。
なかには、絶滅寸前の漁場もあります。
残りの四ヶ所についても、漁獲が現在の水準でつづけられてゆくと、漁業資源の絶滅は避けられないといわれています。
世界全体の漁獲量は、一九八九年をピークとして、それ以来減少しつづけています。
しかも、カレイ、タラ、メカジキなどという魚は少なくなって、アブラツノザメ、ガンギエイ、サメなどの漁獲量だけがふえています。
世界の主な漁業は、いくつかの複数の国々の海域にまたがっているため、乱獲をふせぐことは大変困難です。
しかも、アメリカなどの先進工業諸国のなかには二〇〇海里の海域について、政府が補助金を大量に投下して、漁業資源の乱獲にいっそう拍車をかけているところもあります。
とくに、大西洋海域の漁場では、一二種あった海底魚のうち、九種はすでに絶滅してしまったのではないかといわれています。
タラやカレイの漁獲量は五分の一程度に減少してしまい、カキーハマグリなどは半分になってしまったと考えられています。
魚類の生存は、表層海洋面の水温がわずかに変化しただけで、大きく脅かされます。
また、メキシコ湾流、黒潮などの海流も、地球温暖化の影響をうけて大きくコースを変えると予想されています。
漁業の将来はかなり悲観的なものとならざるをえません。
いま世界全体で、八億人以上の人々が極度の栄養失調に苦しんでいるといわれています。
蛋白質のうち、六分の一が魚介類から摂取されています。
この点からも、地球温暖化の影響を無視することはできないように思います。
地球温暖化にともなって、気候条件が大きく変わり、海水面も上昇し、自然環境にも劇的な変化がおこることをこれまでお話してきました。
そのために、海面下に没したり、サイクロン、台風の危険にさらされ、また雨がまったく降らなくなったりして、これまで定住していたところに住みつづけることができなくなって、他のところに移り住まなければならない人々が多数出てくることが予想されます。
環境難民の問題です。
現在すでに、少なくとも、一〇〇〇万人に上る環境難民が存在すると推計されています。
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